ガイアというのはギリシア神話における大地母神の名で、ラヴロックと親しい文学者がつけたものだ。神話を事実として受け入れた時から、根源に立ち戻って大事なものを取り戻すことが可能になる。
1960年代はじめ、NASA(アメリカ航空宇宙局)から、火星に生物がいるかどうか調査する方法について研究を依頼されたラヴロックは、次のようなアイデアが浮かんだ。
生物がいない惑星は、気体同士の起こりうる化学反応がすべて終わってしまって落ち着いた状態(不活性状態)になっており、その反対に生物がいる惑星は、化学反応を起こしてなくなってしまうはずの気体も多く存在している状態(活性状態)になっている。つまり熱力学でいう平衡状態ではなく、非平衡状態の大気組成である。この非平衡状態こそ生物が存在する条件だ。
それは地球自体が一個の生物のように自己調節システムを持っているという、科学者としては途方もない考えだった。
ラヴロックを中心とするグループは、当時分かっていた火星の大気組成から火星には生物がいないと断言した。1968年に下した結論は、バイキングが火星を探査した1977年に確かめられた。ほかにもガイア理論は様々な科学的予測を生み、順次確かめられていった。しかし、いまだに白目視する科学者は多い。