妹には、高校時代に同い年の恋人がいた。違う高校だったが、彼は中退して飲食店に勤めていた。家は近所なので、妹は毎日のように通っていたが、ある日彼はオートバイの事故で命を落とした。
事故の十日前、以前の事故の保険金として30万円が手に入り、札束を手に広げながら「この金は、俺は使えない」と言う。妹が理由を尋ねると、「ただの紙切れに見える」と言う。事故の一週間前には、四つのヘルメットのうち三つを布で綺麗に包んだ。どうしたの、と妹が訊くと、「もう被らないから」と答えた。
事故の三日前のこと、一緒に過ごしていると、妹の十字架のネックレスが突然ぷっつりと途中から切れた。普通では切れそうにないところで、二人で不思議に思った。事故の前夜、「ごはん何食べるの」と尋ねると、「もうあまり食べてもしようがないから、カップラーメンにする」。
当日の朝、窓辺に立っている姿がなぜかぼやけて見える。目覚めた時の感じと似ていたが、いくら目をこすっても妹には姿がぼんやりと透き通ったように見える。仕事は休みだったが、妹は定期試験中だった。出がけに、「今日、どこか行くの」と声をかけた。「俺、まだ死にたくないからどこにも出かけたくない」。いつも窓から見送ってくれる姿もない。一度は気になって引き返そうとしたが、遅れるわけにはいかなかった。
二時間後の試験中に、はっきり自分の名を呼ばれた。驚いて時計を見た。午前十時二分。まさに同じ時刻に事故が起きていた。