1898年、モーガン・ロバートソンがタイタンという名の船を主人公して小説を書いたことが、14年後に
タイタニック号の処女航海の悲劇で現実となったことは、有名な事実である。高橋ユキヒロ?の祖父が、この惨事の数少ない生還者として当時の日本の新聞に載っている。
ユングは心理療法士として様様な患者の夢に接した。それらの夢は、しばしば神話や宗教、伝説などと驚くべき一致を見せた。そこで、胎児がその後の身体的成長の目を宿しているように、心も最初から白紙ではなく人類の遺産とも言うべき種種の共通イメージを宿しているのではないかと考え、この潜在的な集合的無意識の型をユングは「元型」と名づけた。たとえば英雄は待ち望む人の「英雄」という元型の活性化で生じる。その個人的特性は、善良で、信頼でき、勇敢で、行動力がある。そして「英雄」は、心のみでなく、現実に一人歩きし、英雄らしい様々な偶然を誘発して物語を作り上げる。
たとえば、死の元型が活性化されると、その当人の死のみでなく、その人の愛していた時計が止まる。彼の知人が彼の死の夢を見る、などと因果的には説明できぬ事象が連関して生じる(河合隼雄『宗教と科学の接点』)
客船の悲劇は、作家が惨事の元型を時間を超え無意識に捕らえたか、元型を活性化させたということになる。不吉なことを言うと本当になると言う日本の言霊信仰にも似ていよう。