雑感121 データという事実 Previous 雑感メニュー Next
2021/07/17

 新型コロナがパンデミックを引き起こしてから1年以上経過した。初めは海外の状況しか分からず、令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況がどうなるか予測もつかなかったが、結果的には新型コロナウイルス感染症による死因は0.25%(3,466名)だった。
令和2年(2020)人口動態統計月報年計より
 令和2年(2020)の国内総死者は1,372,648名だった。毎年増加していた死者数は一転して11年ぶりに減少した。新型コロナはむしろ死者を減らしたようだ。それでも2020年は実に100人に1人が鬼籍に入った。1日あたりの死者は約3,761名、1時間あたりで157名、1分間に2.6名が亡くなっている。
 新型コロナウイルス感染症データは厚生労働省の国内の発生状況などで確認できるが、今年の1月から6月までの累計死者は既に11,310人に達した(昨年からの累計は14,776人)。人口は令和3年6月1日現在(概算値)で1億2547万人なのでざっと1万人に1人が新型コロナ感染症に斃れている。
 アルツハイマー症による死者が年間2万人なので今後毎日平均50人近くの死者が出るようだと追いつく計算だ。

 昨年9月、NHKの新型コロナ 重症化や死亡事例 持病や肥満などとの関係は?では国立国際医療研究センターのデータを引き合いに出して、併存疾患なしだった患者は8.0%としている。
 厚生労働省の基準では、というよりWHOの基準では、死亡時に陽性と認められていれば、基礎疾患があろうが寝たきりであろうが、取り敢えず新型コロナウイルスによる死亡と発表される(超過死亡概念)。このため既往症も何もなく純粋に新型コロナ感染症のみで死亡したケースの割合は定かではない。年齢や基礎疾患をどう定義するかによって割合が変わってくるが、1割弱から2割程度だろうか。

 日本ではワクチン接種を完了している割合は2割を超えた。統計的には新型コロナに罹らなくなっているようにはまだ見えないが、昨年から比較すると重症化率や死亡率が相対的に下がってきていることは伺える。
 ファイザーの有効性試験では、コロナ感染歴無し群だけ挙げると、ワクチン接種した者18,198名のうち8名が発症し、打たなかった者18,325名のうち162名が発症した。参考資料2 新型コロナワクチン - 厚生労働省を見れば分かるが、ファイザー製ワクチンの有効性95%というのは1−8÷162という計算式から導き出されたものだ(同資料33ページ)。罹った場合に重症化を防ぐ効果が認められるということで、95%罹らなくなるというものではない。
 合格率と同様の計算に直してみると明確になるが、ワクチン接種すれば 99.96% が発症しなかった。しかし未接種でも 99.12% は発症していない。
 ちなみに、「発症」と表現したのは発熱すらない無症状は含まれていないからだ。軽症以上の者を確定としている。これは海外 6 カ国(米国、ドイツ、トルコ、ブラジル、アルゼンチン及び南アフリカ)で行われた試験の集計であり、日本での試験は実地に現在進行形で分析されている。

 理論的には5割以上の人が接種すれば集団免疫効果が期待できる。チャートで見るコロナワクチン 世界の接種状況はでは接種率6割ぐらいを基準に集団免疫効果が何月何日に出るか予測している。
 しかし、現実には接種率5割を超えた国で再流行が起こっている。これは人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移【世界・国別】で、単なる死者数ではなく人口あたりの死者数なので国際比較をリアルタイムに把握できる。各国のワクチン接種進行と死者数の変化も一目瞭然になっている。
 ウイルスの変異、人の流出入やワクチン供給の問題、様々な観点から集団免疫の不可能性が指摘されており、厚生労働省のQ&Aでも「新型コロナワクチンによって、集団免疫の効果があるかどうかは分かっておらず、分かるまでには、時間を要すると考えられています」と記述されている。今年の"nature"にはCOVIDの集団免疫が達成できないかもしれない理由という記事が出ていた。
 実際これまでにウイルスを撲滅したワクチンと言えば天然痘ぐらいしかない。

 自分としてはワクチン接種に反対でも賛成でもない。しかし、予防接種法に定められた域は超えるべきではないとは思う。1年そこそこの検証結果しか出ていないワクチンでは、なおさらのことだ。職域接種のニュースが流れた時には法令違反とならないのか最初に疑問に思った。会社という組織内では推奨は強制と同義となる。だが、供給の問題で早々に申込みは打ち切られた。
 これまで8か月という短期間で認可されたワクチンの例はない。まずSARSやMERSなど同型ウイルスの先行研究があり、遺伝子工学技術の発展も手伝って例外となった。しかも現在もなお湯水のように研究開発費が注がれている。
 ただ接種と関連が疑われる死亡事例も増え続けている。ただちに関連性が分かる事例は少なく緊急課題となってはいるが、日本でも1回は接種している人は既に4千万人を超えた。接種開始からざっくり3ヶ月だとして人口動態統計からみて10万人以上は別の原因で亡くなっていることも事実で、簡単には判断できないだろう。

 マスコミは毎日新型コロナの感染者数と死亡者数ばかり連呼する。その100倍は別の原因で亡くなっている人たちがいるが、それはほとんど報道されない。しかし、マスコミの役割は恐怖を煽って感染防止に向かわせることかもしれない。
 累計感染者は6月末までに80万人となったが、無検査無症状の者が圧倒的に多いと想像している人たちは大勢いる。だが、多く想定すればいたずらに窒死率を下げることになる。中には普通の流感より窒死率を下げてしまいながら怯えている人もいる。

 東京都を取り上げてみると、毎年11万人以上が死亡しており1日の平均死者数は300人になる。一方、新型コロナ感染症での死者は昨年2月26日以来累計で2千2百人余りになる。東京都の新型コロナ感染症での死亡日別による死亡者数の推移を見ると、死者数が1日10人を超える日は今年3月頃から数えるほどしかない。ここ1〜2か月では1日に0人〜数人の日が続いていて高齢者のワクチン接種が影響していると見えなくもない。
 【都道府県別】人口あたりの新型コロナウイルス感染者数・ワクチン接種率の推移でリアルタイムの接種率と感染状況を確認することができる。

 マスコミやSNSを離れればデータ推移は静かなものだ。おそらく事実を把握している人の多くは議論に加わることもなく、静観しながらやるべきことを淡々とこなしているだろう。
 自分の職場は医療関係の顧客も多く、CTスキャナにレントゲン撮影機、調剤用機器やPCR検査機器、ワクチン用の冷凍庫も扱っている。全国の営業所には使い捨ての防護服が用意されており、本社にはコロナ対策本部がある。直接的な関わりはなくても、現場での長時間の接触をできるかぎり避けるために事前準備を多く含めた作業が要求される。それもやはり感染拡大を防ぐことに繋がる。
 大なり小なり新型コロナとの戦いに関わっている人は大勢いる。その人達は通勤もしなければならず、人との接触も避けられず、休むこともできない。試行錯誤して工夫を続け、治療や研究を続け、仕事を続けている。日々変わりゆく街や人と向き合っている人たちが1億人を救い続けている。

 ここまで判断はほとんど書いていない。データと計算結果、それに事実を思いつくままに並べてきた。"Virus"という分類でプックマークしているのは統計データばかりで、あとは国立感染症研究所や国立国際医療研究センター、厚生労働省、niteといった機関だ。ニュースを見るより無味乾燥だが、歪みの少ない情報を得ることができる。
 たいていの人はデータなど見ない。まして計算を試みたり科学的に理解しようとする人は少ない。自分が判断することではないとか、勉強しなければ分からないとか、様々な理由で専門家とかニュースとか他人の見解に頼る。その結果、初めに刷り込まれた恐ろしい噂がデマだったとしても自分では気づくことができない。正解を求める人というのは現実を見ていない。少なくとも確証バイアスを通して都合のいい情報しか入れようとしない。近頃になってそう思うことが増えた。
 一方、データの見方や切り取り方、また立場によっても解釈や分析はいくらでもできる。自分もそこそこ幻想に取り憑かれはする。データを集めてあれこれ仮定したり想像したりするのは性分のようなものだ。しかし正解が一つと信じていては状況の変化に気づかなくなる。未来に向かっていくためには、変化に対して臨機応変に判断選択して試行錯誤を重ねていく他に方法はないと思う。
 これは考え方や捉え方のパターンを多く所持しているほど有利で、知識はむしろ過去の縛りになる可能性があるということだ。だから知識もデータとして扱って、正しいとか間違っているといった評価は骨抜きにする。言葉遊びのようになるが、正しいと思っているから間違える。常に試行錯誤だと思っていれば、常に別の道が残される。