二人が睦まじくいるためには 吉野弘 童話屋

二人が睦まじくいるためにはの本

この詩集には、吉野弘さんの、平易な言葉で、静かな言葉で語られ、胸の奥に響く
すてきな詩が納められています。
「祝婚歌」が一番好きな詩ですが、私のホームページの「すてきな詩をどうぞ」こちらで紹介済みなので、
「奈々子に」と「身も心も」を紹介します。

奈々子に  吉野弘

赤い林檎の頬をして
眠っている 奈々子

お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた
お父さんにもちょっと
酸っぱい思いがふえた

唐突だが
奈々子
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは
はっきり
知ってしまったから

お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ

ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛することをやめるときだ

自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう

自分があるとき
他人があり
世界がある

お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労が増えた
苦労は
今は
お前にあげられない

お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむづかしく
はぐくむにむづかしい
自分を愛する心だ



身も心も 吉野弘

身体は
心と一緒なので
心のゆくところについてゆく。

心が 愛する人にゆくとき
身体も 愛する人にゆく。
身も心も。

清い心にはげまされ
身体が 初めての愛のしぐさに
みちびかれたとき
心が すべてをもはや知らないのを
身体は驚きをもってみた。

おずおずとした ためらいを脱ぎ
身体が強く強くなるのを
心は仰いだ しもべのように。

強い身体が 心をはげまし
愛のしぐさをくりかえすとき
心がおくれ ためらうのを
身体は驚きをもってみた。

心は
身体と一緒なので
身体のゆくところについてゆく。

身体が愛する人にゆくとき
心も 愛する人にゆく。

身も心も?



  「奈々子に」は、本当にいい詩だと思います。
 自分を愛する心って、大切ですよね。
 どう育めば良いのでしょう?
 うしろめたい事をしていないってのは、大切です。
 お天道様が見ても、恥じない生き方をしてるって事ですよね。
 あと、自分なりに、できる範囲で努力している事も大切です。
 なかなか結果は出ないけど、昨日の自分より今日の自分は、少しでも前進しているという思いですか。
 あまり神経質に考えすぎるのも良くないですね。
 自分は頑張っているのだから、なんとかなるさという、根拠のない自信も大切です。
 明るく、胸を張って行きましょう。
 小さな事に幸福を感じるのも大切ですね。
 道端にきれいな花が咲いているのを喜ぶとか。
人と比べずに、自分なりの幸福を求めましょう。
 人を羨んだり、嫉妬したり、憎んだりとかいう感情をできるだけ抑えて、
 「ついてる」、「うれしい」、「ありがとう」などの言葉を口に出すようにしましょう。


「身も心も」も良い詩だと思います。
誰かを心が好きになると、身体も相手を求め、愛し合います。
身体は身体の愛し方を知ってるのを心が驚きを持って見つめるわけですね。
年をとって身体が衰えてくると、心で愛しても、身体で愛せなくなるのはつらいです。
「私の事、愛してないの」と、女性に言われるようになります。
つらいです。
若い人には、この気持ち、わからないですよね。

若い男の場合は、あまり好きでない女性でも、身体で愛することはできますよね。
(これを、「身体で愛する事」と言えるのでしょうか?)


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