7 web写真展「岩泉線 山峡の細き道」 8 9

「中里の桜」

中里〜岩手和井内

「樹木の枝や葉は、水が光を求めて天に差し出した形である」と詠んだのは、フランスの詩人ポール・ヴァレリーだが、遥か東洋の、朝霧に煙る「水の谷」に咲き誇るこの桜を見ていると、地上に降った水が樹の中の川を遡って天へと還ってゆく、そんなイメージが心の底から沸き上がってくる。

山に降った雨が川となって流れ出て里を潤すように、草花や木々の中を流れる川もまた、それらに美しい花を咲かせ、みずみずしい緑の葉を茂らせる。この谷の植物たちがときどきはっとするほど美しく見えるのは、水が天に還るときに、地上に向かって名残惜しげに微笑むからなのかもしれない。

残念ながらこの「中里の桜」は、国道のバイパス工事が始まった先年切られてしまって、現在は見ることができない。