17 web写真展「岩泉線 山峡の細き道」 18 19

「朝霧の里」

岩手刈屋〜中里

秋が深まるにつれ、刈屋は濃い霧に覆われる日が多くなる。この朝も、谷は10m先が見えないほどの深い霧の底に沈んでいた。683Dが通過する頃には稜線の上に朝日が顔を出すはずだが、果たしてどんな写真になるのやら、これでは全く想像がつかない。

太陽が昇る方向を向いて、列車を待つ。真上の空には既に青空が覗いているから、時間が経てば朝霧は消えてしまう。稜線の上に朝日が顔を出してから霧が晴れるまでのほんの一瞬が勝負だ。

やがて太陽が姿を現し、乳白色の大気が黄金色に輝く。想像以上の絶景に息を呑む。遠くで気動車のタイフォンの音が聞こえる。「早く来い! 早く!」 私は一心に念じ続けた。