OILY PATHOS

 

「さぁ。今日から私がお前の新しい父親だよ。」

「父親?」

「お父さんだよ。」

「お父さん?」

「お前は今日から私の家族の一員なのだよ。」

「家族・・・。」

 

 

ある日、夢見ていた家族が僕にはできちゃった。

家族。パパとママ。家には大きな犬がいて、毎日、毎日、三人と一匹でピクニック。

お昼ごはんはパパと僕で釣った大きなマスを焼いて、大きく口を開けて一人で全部食べちゃおう。

パパは僕を馬にのせてくれる。

ママは僕に大きなパイを焼いてくれる。

夜、パパが帰ってきたら、僕をだっこしてくれて、

寝る前にはママがお話をしてくれる。

それで、最後に二人からのキス。

それから僕はゆっくり眠るんだ。

 

 

そんな家族が僕にも・・・。

 

 

僕とパパは大きな黒い馬車に乗った。

そうしたら新しいパパが、

「お前は今日から私の息子だからね。」

って、僕を見てゆっくり言った。

僕はよく分からなかったけど、

「じゃあ今日からパパは僕のパパなんでしょう?」

って言ってみた。

パパは言った。

「そうだよ。」

目を、そらしながら。

 

家は、『家』じゃなくて、まるで『お城』みたいに大きかった。

げんかんの前にはたくさんの人じゃなくて、たくさんのロボットが。

人は、いなかった。

 

「パパ。」

 

僕は少しこわかった。

ロボットはおじぎをしていて、どんな顔をしているのか分からなかったから。

「大丈夫。さぁ、ここがお前の新しい家だ。」

そう言って、パパは僕の肩に手を、そっと、置いた。

パパの手は、大きくて、あったかかった。

 

「うわぁ、すっごく大きな家!」

天井が高くって・・・、玄関から入ると目の前には大きな、階段。

床をのぞく僕の顔が映るくらい床はぴかぴかで、

ドアは天井と同じくらい高かった。

 

これが僕の、新しい家・・・。

 

「パパ、ママはどこにいるの?」

 

どんな顔してるの?

どんな声してるの?

 

パパは言った。

「ママは、いないんだよ。」

目を、そらしながら。

 

「いない・・・の?」

「でも、お前にはお姉さんができるんだよ。」

「お姉ちゃん?」

 

 

僕に、お姉ちゃんができるの?!

 

 

「おいで、ティマ。」

パパはティマって言った。

僕の新しい家族-お姉ちゃんの名前、ティマ。

 

 

「はい、お父様。」

声がした。

お姉ちゃんだ!

「まぁ、その子がわたしの新しい弟?」

とってもとってもやさしい声。

「そうだよ。気に入ったかい?」

お姉ちゃんだ、お姉ちゃんだ・・・。まるで天使様みたいな金の髪!

 

そんな人が僕のお姉ちゃんに・・・!

 

「あなた、お名前はなぁに?」

天使様は階段の上から僕に言った。

「僕ね、ロック。」

 

「ロックね。わたしはティマよ。今日からよろしくね。」

僕を見てにっこり笑ってくれるお姉ちゃんを見て、僕もすっかり嬉しくなって、

「うん!」

大きな声でこう言った。

「上がっていらっしゃい。あなたの部屋に案内するわ。」

「うん!」

嬉しくって、「うん」しか言えなくて・・・、

だけど、できる限りのスピードで僕は階段を走って上った。

 

そこには。

 

車椅子に乗ったお姉ちゃんがいた。

「お姉ちゃん・・・。」

僕はなんて言ったらいいのか分からなかった。

車椅子をじっと見つめている他に何をしていいのか分からなかった。

ただ、息を切らして、お姉ちゃんをみていること以外は。

 

「わたしはね、生まれつき足が悪いの。」

ゆっくりと動き出す車椅子について行ったらお姉ちゃんはこう言った。

「お姉ちゃん、可哀想。」

僕はただ一言、こう言った。

「ありがとう・・・。」

そう言ったお姉ちゃんはとても悲しそうに見えた。

 

僕、何もしてないのに。

 

部屋はとっても広かった。

だけど僕の部屋にはベッドと、机と椅子と、あとは棚しかなかった。

「ここがあなたの部屋よ。わたしの部屋はさっきの階段を上ってすぐ右だから。」

「うん・・・分かった。」

「大丈夫。さっきの言葉は気にしていないわ。夜、怖くなったらわたしの部屋へいらっしゃい。」

「うん・・・、うん!行く!絶対行くからね!」

「ふふ、分かったわ。待っているからぜひ来てね。」

そう言ったお姉ちゃんの顔がすっごくキレイで、

僕はその日からたいていはお姉ちゃんの部屋にいるようになった。

 

「わっ!」

「ダメ。驚かされる前に気づいてしまったわ。」

「え〜。なぁ〜んだ・・・。」

そんな僕をお姉ちゃんはじぃっと見て、ちょっぴり微笑んで言った。

「今日はどうしたの?なんだか嬉しそうね。」

僕の嬉しいこと、悲しいこと、お姉ちゃんには全部分かっちゃう。

だから隠しておけないんだ。

「お姉ちゃん!僕ね、少し大きくなったねって言われたよ。」

「あら、本当?・・・そうね。少し大きくなったんじゃない?わたしが抜かれるのも今のうちね。」

「えへへへ・・・。」

「じゃあ、もうわたしの膝の上では本は読めないわね。」

「え、やだァ!じゃ、僕、小さいまんまでいい!」

「あら、ロックは大きくなりたくないの?」

「それもやだ・・・。」

「まぁ、じゃあどっちがいいの?ふふふ・・・。」

「どうしよう・・・。」

 

お姉ちゃんのお膝に座って本を読んでもらうのもいいけど、

大きくなってお姉ちゃんのできないこともやってあげたいな・・・・・・。

 

どっちにしようかなぁ?

 

「ロック、3時だからお茶にしましょうか。」

「やったぁ。僕ね、いつものがいい!」

「はいはい。チョコレート・マフィンに紅茶、それから角砂糖は二つね。」

「うん!」

 

お姉ちゃんと一緒に食べるおやつってとってもとってもおいしいの。

なんでだか分からないけれど、とってもとっても楽しいの。

だからずっとずっと一緒にいたいって思うの。

 

「ごちそうさまぁ!」

「あら、ロック!ふふ、口のまわり、チョコレートがたくさんついてるわよ。」

「ん〜。」

 

「お姉ちゃ〜ん!とれない〜。」

「手でぬぐったら手が汚れちゃうでしょう?ティッシュでふきなさい。」

「ん〜。」

 

「お姉ちゃ〜ん!とれない〜。」

「あらあら、じゃあ、そこで顔を洗ってらっしゃい。すぐとれるわよ。」

「ん〜。」

 

「お姉ちゃ〜ん!」

「とれた?ちゃんととれているわね。今度はなに?」

「タオルが汚れちゃったぁ・・・。」

「そんなこと気にしなくていいのよ。洗えばすぐにおちるわ。」

「ん〜。」

 

そんな楽しい毎日があっという間に過ぎて、もう僕も7歳になった。

「ロック。お茶の用意ができたからお父様とロートン博士を呼んできて。」

「うん、分かった。」

ロートン博士は最近よく僕たちの家へやってきて、パパと何かをやっている。

大きなバッグをガチャガチャならして、パパの部屋へ入ってく。

一体何をやってるんだろ?

 

コンコン。

 

ノックをしたのに、返事がない。

入っても、いいのかな・・・。

 

キイィィイ。

 

「そうですね・・・、ここの回路を少し変えた方がいいかと思います。」

「そうか・・・、こうなってしまったのならしょうがないのだろうが・・・。しかし・・・。」

「いつ修理しますか?」

「いや、ちょっと考えさせてくれ・・・。今まで本当に私の子供のように育ててきたのに・・・。」

「ですが、レッド公・・・。」

「いきなり『修理』ときては・・・、どう気づかれずにやれるというのか?」

 

回路?修理?子供?

一体どういうことなの、パパ?!

 

「パパ・・・。」

体をびくっとさせて二人が振り向く。

「今の、聞いたのかい?」

そう言ったパパが少し怖くて、首を縦に振るのがやっとだった。

「そうか・・・。聞いてしまったのだな・・・。」

パパはゆっくりと僕の前に跪き、僕の方を掴んだ。

そして恐る恐る首を縦に振る僕を見て言った。

「じゃあ『本当のことを正直』に言おう。」

「本当の、こと?」

「そうだ。今までロートン博士が私の家にしょっちゅう来ていたのは知ってるな?」

「うん・・・。」

「何故だか分かるか?」

「分かんない・・・。」

「それは、お前が壊れないように時々、寝ている間に診てもらっているんだよ。」

 

え・・・、なに?

僕が、壊れるの?

 

「僕が・・・?」

「そうだよ。お前はロボットなんだ。」

パパはそう言った。

目を、そらしながら。

 

僕が、ロボット・・・?

 

「うぇ・・・、え〜ん・・・。」

「泣くのを止めなさい。」

「うぇ、ぇ・・・っ、ぇっ・・・。えっ・・・。」

よく分からなかったけれど、涙は自然と僕の頬を濡らした。

「泣き止むんだ!」

そう叫んだパパがすごく怖くて、

僕は涙を流すことを忘れた。

 

僕は、ロボット。

お姉ちゃんとは違う生き物。

 

生き物・・・。

それですらないよ。

 

お姉ちゃんが僕がロボットだって分かったら・・・、どうしよう!

嫌われちゃうかもしれない!

 

「いいか?ティマにはこれは内緒だ。」

パパは僕の耳に口を近づけて静かに言った。

 

パパは静かに言った。

 

僕がロボットだってことを内緒にしろって言った。

 

「何故ここへ来たんだ。」

「あのね、お姉ちゃんがパパと博士を呼んできてって。お茶の時間だからって。」

「そうか・・・。」

 

3人で部屋を出た時、お姉ちゃんはちょうど自分の部屋を出ようとしていたところだった。

「あら、みんな遅かったわね。何をしていたの?お茶が冷めてしまうじゃない。」

「はは、すまん、すまん・・・。」

パパの笑い声は妙に、暗かった。

 

「ロック、どうしたの?何かあったの?」

 

お姉ちゃんには、何でも分かっちゃう。

だけど、僕は嘘をつかなくちゃいけない。

 

「ん?なんでもないよ!大丈夫だよ!早く食べよう、ね、お姉ちゃん!」

 

その日、僕は生まれて初めてお姉ちゃんに嘘をついた。

 

「博士、博士は今、うちでどのようなことをやっていらっしゃるのですか?」

ふいに、お姉ちゃんは聞いた。

「い、今はセキュリティ・システムのメモリ増築です。」

「増築というよりも新型システムの導入だ。これならうちにはねずみ一匹潜り込めん。

危険なことは何一つ起こらんだろう。」

「何せ、レッド公の依頼ですから・・・、なにせ腕によりをかけないといけませんで・・・。」

「だから部屋に何時間もこもるしかないのさ。」

言い訳がましくパパは言った。

「まぁ、難しいことをおやりになっているのね。わたしにはさっぱり分からないわ。」

「僕もだよ。」

お姉ちゃん以外の3人、つまり僕達はとても、焦った。

 

「お前・・・今日で何歳になった?」

急にパパが話を変えた。

「7歳になったよ、パパ。」

「そうか・・・、じゃあもう今日から私を『パパ』と呼ぶのはやめるんだ。」

毎日の何気ない会話の延長だと思っていた。

「え、じゃあ・・・。」

「今日からお前は私を『お父さん』と呼びなさい。」

「え、でも・・・。」

「分かったな?」

「うん・・・。」

今日は僕がここにやってきた日。

だからバースディじゃないけれど、今まではずっとパーティをやってた。

 

・・・なのに。

 

今日はもう、何もやってもらえなかった。

 

お姉ちゃんからのプレゼントは、オルゴールだった。

素敵な曲だったけれど、なぜか僕には「さようなら」の曲にしか聞こえなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴト、ガタガタッ、ガタン。

 

「お、もう来たか・・・。よし、行こうか。」

「ん・・・どこへ行くの?」

ついて行こうとした僕にお父さんは言った。

「『どこへ行くの?』ではなくて、『どこへ行くのですか?』と言え。」

「うん・・・。」

「『うん』ではなくて『はい』だろう。そんな調子では学校で笑われるぞ。」

お父さんの言いたいことがなんとなく理解できた僕は、急に『学校』と聞いて少しとまどった。

「学校・・・?」

「そうだ。今日からお前は寄宿舎で寝泊りして、ここから少し離れたところで生活してもらう。」

突然告げられたこれからの生活に僕は口を開けたままになった。

「迎えが来ているんだ。早く行くぞ。」

「はい・・・。」

言われるがままにお父さんについていく僕にお姉ちゃんは言った。

「ロック!わたしのかわりにオルゴールを連れていってね!」

 

僕はお父さんの言うとおりにしなくちゃいけない・・・。

だって、僕はもう7歳になったんだもの。

 

「大丈夫です、持っています、『義姉さん』。」

『義姉さん』という響きになれない僕と、義姉さん。

別れ際、義姉さんは玄関の前までは来てくれなかった。

遠く離れた窓から僕を静かに見送ってくれた。

 

行ってきます・・・。

 

 

僕は窓を見ることができなかった。

さみしくて泣いてしまいそうだったから。

 

 

 

寄宿舎について、僕はいろいろな人に出会った。

明るい人、暗い人、全ての人々は僕にとって教室の壁紙のような存在にしかならなかった。

破れたところから穴はどんどん広がっていく。

まるで、傷口のように。

 

 

気が付いたときには僕の心はすさんでいて。

 

 

「おい、ロック!一緒にサッカーやんねぇ?」

「おい、やめとけよ。あいつに関わるとやっかいだ・・・。」

 

こんなことはしょっちゅうだった。

 

「え、なんでさ?」

「あいつさ、隣町の連中に絡まれて、護身用の拳銃ぶっ放したんだ。」

「え・・・、マジかよ。」

 

そうしたのは、俺の体に幾つもの精密機械が張り巡らされているから。

 

壊れないように。

壊されないように。

 

『誰か』を想う気持ちと同じくらい、

大切に。

 

「そうさ。相手を傷つけておいて、平気な顔してたらしいぜ。」

「へぇ・・・、そうなんだ。ちょっとヤバイんじゃねぇ?」

「だから、近づくのやめとけって言ったんだ。」

 

「・・・聞こえてるぜ、クロード。」

 

「ヤベっ!」

 

そそくさと逃げる奴等を鼻で嘲笑って、俺はさっさと自習室に行った。

 

「おい、またロックだよ・・・。」

「あいつ俺たちが喋ってると睨んでくるんだよな・・・。」

「お前の部屋じゃねぇっつーの!」

「っていうか、すでにこの部屋、あいつの領域なんじゃねぇ?」

「自分はさっさと飛び級して、俺たちを見下そうって魂胆だぜ、きっと。」

 

「どうとでも言うがいいさ。だがな、一つだけ忠告しといてやるぜ。」

「お?なんだよ、やる気かぁ?!」

「・・・あまり調子づくなよ・・・。」

 

その直後、この部屋にいるのは俺だけになった。

 

小等部、中等部、高等部とずっと同じ敷地内にあるので、

イヤな奴等と12年も一緒にいなきゃいけないのがイヤだった。

 

俺がここを抜け出せる方法はただ一つ。

飛び級をして早く勉強をすませることだった。

ここを勝手に抜け出すことはできない。

例え規律の厳しいこの学校から抜け出しても、お父さんが許してはくれないだろう。

 

「おい、ロック・・・。」

「なんだ、またお前か。ゲルハガーニャ。」

「お前さ、また俺のルネイアスに手ぇ出しただろう?」

「俺の方からじゃない。また彼女の方からだ。」

 

うざったい。

 

「そうか・・・。」

「そうだ。さっさと帰れ。勉強の邪魔だ。」

「おっと、ここは自習室だったか。」

「貴様の頭は綿でも詰まっているのか。」

「もっと、上等なものさ。」

「そうかい。」

「じゃあ、帰るとするか・・・。」

「じゃあな。」

 

「またな」

 

何時間かここで勉強したのち、ゲルハガーニャのさっきの言葉を思い出した。

「またな」

奴は絶対1Fのフロアで待っているに違いない。

面倒なことが嫌だったから、裏口から出て走って帰った。

 

そもそもルネイアスが俺の部屋に勝手に上がりこんできたんだ。

 

唇を重ねてきたのも彼女だ。

服を先に脱いだのも彼女だ。

先にベッドに横になったのも彼女だ。

 

別に俺はルネイアスを愛していたわけじゃない。

だけど、気がついたら抱いていた。

そこにあったのは。

 

 

 

人間の狂気的な性欲という名の本能。

 

 

 

俺たちが今夜も快楽に溺れていたという事実を知ったらゲルハガーニャは俺を許さないだろう。

しかも、『事実』は一つだけではない。

 

いつもルネイアスは俺の前にいる。

 

知らない間に部屋に入っていたり、

ドアの前に座り込んで待っていたり。

 

 

俺は、お前なんかを抱きしめていたいんじゃないんだ。

 

 

「きゃっ、・・・何よ、急に!」

「出てけよ。」

「え、なぁに?ロック。」

「俺はお前なんかが欲しいんじゃないんだ!」

 

俺が欲しいのは

 

「どうしたのよ、ロック・・・」

「うるさい、もう二度とここへは来るな!」

「なによ!あんたみたいに顔だけがいい人なんてこっちから願い下げだわ!」

ドアが大きく叫び声をあげて閉まったあと、彼女の足音が遠ざかっていく音だけがした。

 

 

肉体的にしか手に入れられないものではなく、

空気のようにその場にあるような自然的な愛だけ。

 

 

 

「誰だ。フォーヴか?」

ルネイアスが去った後、ドアの軽いきしみで誰かが入ってきたのに気づいた。

「よぉ。派手にふられたなぁ。」

 

こいつはフォーヴァルグ・レイスタン。

俺のルームメイトだ。

何故だか分からないが俺は親しみをこめてヤツを『フォーヴ』とあだ名で呼んでいる。

 

「どうでもいいさ。あっちから来て、あっちから去っていったんだ。好きにさせるさ。」

 

「そうか?俺はあんな女一度だけでもいいから抱いてみたいとは思うんだけどね〜。」

 

「・・・ん?ちっ、また時間が経ってやがる・・・。」

「お前等がんばりすぎなんじゃねぇ?」

フォーヴが苦笑する。

ルネイアスが俺と寝ると、目覚める時は決まって2,3日過ぎたあとだった。

そんな時こいつがどこで寝ているかまでは知らないが、俺が迷惑をかけているぐらいは分かっている。

そういう時ヤツは、『ま、気にすんなよ。』と、そう言ってすませる。

ヤツはそういう人間だった。

 

「うるさい。手紙があるんだろう?さっさとよこせ。」

俺はベルトのバックルをはめながら言った。

 

何故か妙に面倒見がいいヤツで、俺に関わってくる。

隣町の事件にしたって、こいつが止めに入らなかったらどうなっていたか分からない。

 

「ほらよ。・・・しかし、よくもまぁ、

返事のくれないヤツに毎度、毎度手紙を書いていられるねぇ。お前の女か?」

「違う。義姉だ。」

「へ?!お姉さん!お前そんなのがいたのか?!」

 

「うるさいぞ。一人にしてくれ。」

「・・・はいはい。ゆっくり過去を楽しみな。」

そう言ってフォーヴはゆっくりとドアを閉めて部屋を出て行った。

 

外野は去った。

 

俺はオルゴールのねじをまき、ふたを開け、手紙の封を切った。