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「あこがれ」体験記 2008
AKOGARE

2008年8月15日〜16日一泊二日で帆船「あこがれ」に乗船してきました。私は2006年6月にも一日コースに参加したことがあり、今回は二度目です。(その時の日記はこちら
日本には現在帆船として登録されている現役の船は三隻しかいないそうです。そのうち、唯一の一般の人向けの船が「あこがれ」です。帆船に乗って、帆を広げたりいろいろな作業を体験することを、セイル・トレーニングというので、乗船する一般の人は、トレイニーと呼ばれます。夏休み中なので子供が多いかと思ったら、意外と少なくて、老若男女さまざまな方がいました。乗船の動機もさまざまで、ヨットに乗っている方、日本丸の展帆ボランティアをやっている方、咸臨丸ゆかりの方(ちょうどあこがれは大きさが同じくらいだそうです)、もちろん帆船小説がお好きな方と、さまざまでした。


よこはまのぷかりさんばしに停泊する「あこがれ」いよいよ乗船です。

今回のトレイニーは35名で、一泊二日の体験コースでは満員の人数、他にクルーとボランティアの方を含めて、50人が乗船しています。
ユーモアのあるお話の上手な船長をはじめ、クルーの皆さんも親切で、説明もわかりやすく、快適で安全な船の旅が出来ました。トレイニーはワッチと呼ばれる班に別れ、それぞれベテラントレイニーであるボランティアの方がリーダーについていろいろ教えてくださいました。


2007年の横須賀、咸臨丸フェスティバルのパレードで、帆をひろげて航る「あこがれ」。

「あこがれ」は縦帆の帆船です。帆船というと横帆の船を思い浮かべることが多いですが、物語を読んでいると、縦帆の船のほうが、向かい風方向に進む性能が高く、軽快な航り方ができて、かっこよかったりします。すっきりとした綺麗な姿で、私は縦帆の船も大好きです。「日本丸」と「海王丸」は姉妹船でほぼ同じ形で、バークというタイプです。縦帆の船はスクーナーといいますが、「あこがれ」はフォアマストに横帆も持っているので、トプスルスクーナーという形です。「日本丸」と「海王丸」の写真はこちらをご覧ください。

天気予報では、雨が降るかもしれないとのことでしたが、行ってみると二日間ともよく晴れて、むしろ日差しが痛いくらいでした。風もちょうど良く吹いて、気持ちの良い航海でした。夕焼けも、月も綺麗でした。

横浜ベイブリッジからディズニーランド沖へ
横浜を出航して、東京湾を千葉のほうに向かい、ディズニーランド沖に碇を下ろして一泊し、また横浜に戻ってくるというコース。前回日帰りの体験コースで乗ったときは、まったく風がない日で、帆を広げても窓を閉めたカーテンのようにまっすぐに垂れ下がるだけでちょっと残念だったのです。今回は、風もちょうど良く吹いて、途中エンジンを止めても、帆走で5〜6ノット出ていました。それほど強い風でもなく、帆は三枚だけでしたが、こんなに快適に走れるとは、感動的な体験でした。

横浜のぷかりさんばしを出るとすぐにベイブリッジの下をくぐります。船の上から見ると、高いマストがぎりぎりに通り抜けているように見えるのですが、実際はもっと背の高い日本丸でも楽に通ることが出来るくらい、橋の下には余裕があります。



写真は帰りのベイブリッジの下です。ぷかりさんばしに入るという信号の旗を掲げています。

「2−6HEAVE!」
さて、セイル・トレーニングの楽しみ、展帆です。行きでは、船首のほうの三角帆、アウタージブとインナージブを広げる班でした。大勢で引くのですが、結構力が要ります。少し風があるせいか、前回よりロープが重く感じました。
途中で、方向変換をするために、三角帆の風を受ける方向を変えました。船長の説明によると、順風で早く進みすぎるので、開きを変えてゆっくり進むためにそうしたそうです。おかげで船が走っている状態で、私たちはバウ渡りをゆっくり楽しめたわけです。


帰りは、船体の真ん中の縦帆、メンスルの展帆を体験しましたが、何回かやっていると、帆とロープとマストやガフの関係が少し見えてきて面白いです。ロープの先頭についている時は、自分の仕事を大きい声で報告するのですが、なれないカタカナがたくさん並んでいて噛みそうになるのも楽しかったです。ロープをビレイピンに巻きとめるのも、出来るようになりました。


クルーとボランティアの方々が、縦帆を開いています。

「あこがれ」ではロープを引くときの掛け声は『2−6HEAVE!(トゥー、シックス、ヒーブ!)』といいます。ちょうど『一、二の三っ!』のリズムになります。「日本丸」や「海王丸」のように大きい船の場合は、ロープを引く人たちは『わっしょい』と言いながら甲板を走るのですが、「あこがれ」はそれほど甲板が広くないので、足を動かさず、ロープを持つ手を、右、左、と持ち替えて引く、を繰り返すのに良いリズムなのだそうです。で、その言葉の意味は『二番、六番、引け!』。昔、帆船に大砲を積んで戦争をしていた時代、大砲を撃つと、その反動で大砲本体が後ろに下がってきます。そこに、次の弾と火薬を込めてまた前に押し出します。大砲本体を前に押すのではなく、滑車を通したロープを引いて押し出すのですが、その引っ張る担当が、2番と6番の砲手だったそうです。以来、帆船やヨットでロープを引く掛け声は『2−6HEAVE!』なのだとか。少なくとも、英語圏ではそのようです。帆船小説ファンとしては、楽しくなってしまう話ですね。

ただ、日本人が、カタカナ読みをしてしまうと、それぞれ、2、4、3音節を使ってしまうので、確かにリズムがとりにくいというか、良くわからないという人も出るのかもしれません。英語に慣れている人や、英語の帆船映画やドラマを見慣れている人には『HEAVE!』は耳慣れているので、大丈夫だと思います。今回のトレイニーの皆さんも、上手くリズムを取っていたようです。

バウ渡り
日帰りコースでは体験できなかった、バウ渡り。船首(バウ)に突き出ている、バウスプリットの先端まで行ってみます。といっても、バウスプリットの上を歩くわけではなく、その下にネットが張ってあって、その上を歩いて先端まで行き、反対側を戻ってくるという、文字にするとなんと言うことはないのですが、わくわくする楽しい体験なのでした。


少し風があって、気持ちの良いゆれ方で良かったです。出来れば、先端に立って、映画のジャック・オーブリーごっこをしてみたかったのですが、近くに映画を見ている人はいないみたいでした。むしろ「タイタニック」は話題になっていましたが。


帆の向きが、展帆したときと反対になっているのもご覧ください。

ヘルメットと命綱をつけて歩きます。大勢なので渋滞が出来ます。止まっている時は、ベルトのフックを金具にとめて、しばし船の揺れと風を味わいます。太陽の光にきらきら輝く海面がとても綺麗でした。
途中、足元に金色の船首像が見えます。「あこがれ」の船首像は日本武尊(やまとたけるのみこと)だそうです。白鳥の翼をお持ちです。尊は白鳥に化身したという話に基づいているようです。上から船首像に触ってみている人もいました。


上から見た、船首像。この日、ボースンズチェアで降りて、対面してみたいと思ったのは私だけでしょう(笑) きらきら光る海面もご覧ください。


この角度で見ると、バウスプリットの長さがわかるでしょうか。下船後桟橋から撮った写真です。

自由時間
航海中は、自由時間も結構たくさんあって、ゆったりと海の上の旅を楽しむことも出来ます。日差しがきつかったので、日陰を探して座っている人も多かったです。


ディズニーランド、もしくはデズニーシー、左のほうはホテルです。この位置で、碇を下ろして一泊しました。


帆を畳む作業の仕上げは、クルーとボランティアの皆さんのお仕事です。トレイニーは尊敬のまなざしで見上げつつ、その上空を飛行機が通るのも見て楽しんだりしているのでした。

東京のビル群の間に沈む夕焼けも綺麗でした。富士山もうっすらと見えました。東側には、満月より一日前の月が明るく出ていました。少し離れた海上には、入港の順番を待っているらしい貨物船が数隻碇を降ろしていました。



夜になると、ディズニーランドの光や、遠くの陸の2〜3ヶ所で花火を上げているのが見えました。夜は全員で甲板に集まって、自己紹介などして楽しく過します。実は、当日は私の誕生日だったのですが、本人は船の旅ではしゃいですっかり忘れておりました。ところが、急に照明を消して本船のライトアップの電飾が付いたと思うと、サプライズ! お祝いの歌とプレゼントを頂いてしまいました。トレイニーのお1人、プロのフルート奏者の方の演奏と、クルーの方の寄せ書きのポスターまで頂きました。感動しました。皆様本当にありがとうございました。忘れられない素敵なお誕生日になりました。

充実したお食事
お食事は、ボランティアの方が作ってくださり、トレイニーが当番でお手伝いをします。毎回数品のおかずとフルーツまで付く、美味しい食事で、とても満足の行く物でした。一度おかずにお好み焼きが付いたのは、さすが大阪の船だわと思った物でした。
メスルーム(食堂)では、冷たいお水と、熱いお茶、珈琲、紅茶も自由に飲めます。マスト登りをしたときには、甲板にまで冷たいお水を用意して下さり、心配りが行き届いていて嬉しかったです。

そのほか、ベッド、洗面、シャワーなど設備も綺麗に整っていて、快適な住環境でした。ベッドに横になると、ゆりかごのようにゆうらりしていい感じでした。


女性の船室からの眺め。朝日の中に貨物船が浮かんでいます。カモメも飛んでいたけれど、写真には写せませんでした。

ホーリーストーン
朝起きると一番に、トレイニーはみんな甲板掃除をします。小説を読んでいると、必ず出てくる甲板磨きのシーン、映画「マスター・アンド・コマンダー」では事件の発端でもありましたね。一度は実際にやってみたかった、ホーリーストーンの甲板磨きです。ホーリーストーン「聖なる石」は石が聖いのではなくて、聖書くらいの大きさの石だから、また、磨いている姿が拝んでいるようだからこう呼ばれるとも言われているようです。甲板に海水と磨き砂を撒いてごしごし擦ります。結構力が要ります。でも、楽しいです。そのあと、椰子の実を半分に割った物でさらに磨きます。「あこがれ」では『わっしょい』といいながら磨きます。これは小説とは違いますが。



大きさは大体こんな感じ。それほど重くはない石です。厚さは使用歴によって、薄いのも厚いのもありました。


椰子。切り口はパームたわしの成型前の状態ですね。


使用後のホーリーストーンと椰子の実たち。ちなみに、舵輪は使用されないので固定してあります。

マスト登り
楽しみにしていた、マスト登りは二日目の午前中でした。できたらヤード(横桁)まで行きたかったのだけど、二泊三日コースでないと出来ないそうで、ちょっと残念でした。登ったのは、前回と同じミズンマスト、3本あるうちの一番後ろのマストです。するする、というわけではないけれど、楽しく登ることが出来ました。そして、トップからの眺めの気持ちの良いこと。天気が良くて、青い空と白い雲、波に反射する日の光がきらきらしてとても綺麗でした。向こうに見える陸も、もちろん甲板からの眺めとは全然違います。とっても幸せな気分でした。できたらさらに上に行きたかったけど、やはり、もっと長い期間のコースでないとできないそうです。


このあたりは楽なのですが、トップ台のすぐ下の部分は、背中が下になるため腕の力が要るので、ちょっと大変。


この日もほとんど風がなかったので、揺れもなく、怖い感じはまったくありませんでした。


甲板からトップ台まで17メートルくらいの高さがあるそうです。気持ちが良いので、このまま半日くらい居たい気分でした。


ミズンマストのトップから、メインとフォアマストのトップを望む。今度は、ヤードまで行ってみたいものです。

必見映画?「タイタニック」
さて、映画「タイタニック」です。私はこのHPの馬の映画に紹介文を書いていますが、基本的には当然船映画です。バウ渡りをしたときも、ディカプリオとウィンスレットの有名な船首で腕を広げて風を受けているシーンが話題になっていました。また、救命胴衣の説明を受けた時もまた、映画のラストシーンがたとえに使われていて、皆がうなずいていました。救命胴衣には笛が紐でつけられていて、助けを呼ぶ時には、声を使うより効率的だというところです。他にも、何か話題になっていたようなきもします。というわけで、やはり、帆船物ではないけれど、一度は見ておいたほうが良さそうですね。

余談ですが、以前お台場の船の科学館を見学した時、時代に沿って帆船が並んでいるのを見ながら、乗りたいなあと思っていたのですが、急にタイタニックのような船が出てきて『これじゃつまらないね』と話していたら、別の見学者がうしろで『これなら乗ってみたいわ』と言っていたのを思い出しました。大部分の人は確かに、そうなのかもしれませんね。夏休みに船に乗りに行く、と人に言うと『優雅ねえ』と返されるのは、想像する船が違うからなのでした。

帰りに、横浜港に近づくと、『優雅』な豪華客船の「飛鳥U」と「ぱしふぃっくびいなす」が、大桟橋についているのが見えました。大きな船です。その横に広がる山下公園、そしてお化粧直しのすんだ氷川丸とちょっと良い眺めでした。横浜に住んでいても、海側から見る機会はあまりあるものではありません。


↑逆光の横浜みなとみらいエリア。一番のっぽのビルがランドマークタワー、その麓に大観覧車と、初代「日本丸」がいるのですが、写真ではわかりませんね。


↑右から「飛鳥U」大桟橋をはさんで「ぱしふぃっくびいなす」左が係留展示の「氷川丸」その後ろには、マリンタワーが見えます。

一泊二日の短い時間でしたが、天気も良く、風も良く、とても充実感のある快適な体験航海ができました。船長はじめ、クルーの皆様、ボランティアの皆様、ありがとうございました。トレイニーの皆様ともいろいろお話が出来てたのしかったです。また機会があったら、乗船したいです。今度は少し長いコースに参加できるといいな。


一部写真提供:Sgさま。ありがとうございました。

◇「あこがれ」の公式HPはこちらです→http://www.akogare.or.jp/top.html

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