『時間の利得』3 釜石の奇跡と時間の利得

保土ケ谷区災害ボランティアネットワーク 委員 佐藤榮一

 危機管理において時間の感覚を持ち、事案発生から被害発生までの時間を活用することを『時間の利得』と称します。これを更に有効化するために『正常性バイアス』を払拭します。具体的に言うなら、想定外想定をする、マサカをモシカにと考えることです。

 先の8月号で釜石の奇跡に触れました。後日談となりますが青葉区の谷本中学校拠点の防災研修会でこのことを話しましたところ、校長先生から釜石の中学生との交流の場で、「奇跡とは言わないでほしい、天の助けではない自分たちが時間をかけた努力の成果だ」という趣旨の言葉があったとのことです。私が会った生徒も「自分たちだけの成果ではない、先輩たちが10年近くも実践されてきて、自分は3年間携わっただけです」とも述べています。まさしく、時間の利得論の手本と言える行動です。先人の遺訓を想定して対策を立て、訓練を実践してきました。加えて、学んだ学識を付加して臨機応変、状況即応の行動をとり、自分だけではなく小学児童や高齢者の命を救ったことは、いま全国で懸念されている大規模自然災害からの避難方策の示唆になることであると考えます。

 私たち神奈川県に住む者にも関東大震災や県西部地震など発生が繰り返されている大災害があります。次の発生までが時間の利得であり、それまでの間に対策が確定されなければならないと思いますが私たちはそれを活かしているでしょうか。
例えば県西部地震は、歴史上過去6回は七十数年に一度の繰り返し間隔を持つといわれてきましたが今では約90年にもなっています。もし発生して甚大な被害をこうむったときには『未曾有のこと』『想定外であった』と釈明するのでしょうか。

 ちなみに、県が対策を立て始めたころ、学者が想定した被害は、『小田原市の木造建築は100%倒壊する見込み』と答申して議会等が紛糾したことを記憶しています。

この90年間を時間の利得としてどれだけの対策を立ててきたでしょうか。
また、これは小田原市のことでわが町のことではないと、いわゆる『正常性バイアス』に陥っている意見も多数聞きます。

 次の大災害に備え学習し準備をすることが大切です。先に記した谷本中学校の生徒たちは、隣接区域の谷本小学校拠点の訓練にも参加しておりました。校長も3・11では、中学校のみならず小学校にも気を配り、弟妹の保護にあたるよう指導し成果があったとのことでした。奇跡を待たず努力の成果を信じましょう。

『天は自ら助くる者を助く』  サミュエル・スマイルズ【英】


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