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藤木ゆりこの かぶき感劇☆レポート

OPEN MAR.11.2000

ここでは、私が見に行った芝居の感想を、書いていきたいと思います。
当然の事ながら、見方は偏っています。あしからず☆

花組芝居「百鬼夜行抄」
’03(平成15)年1月25日 博品館劇場

楽しみにしていた、花組芝居「百鬼夜行抄」を見に行きました。とっても面白かったです。私の大好きな、今市子さんの怖い漫画「百鬼夜行抄」が原作ですが、「お化けがゲストで登場するサザエさん」というコンセプトで、ギャグ仕立てになっていました。そのあまりのギャップがまた楽しくて、笑えました。元々歌舞伎色の強い男性ばかりの劇団だけに、歌舞伎風の衣装や台詞回しが絶妙で、それもまた楽しめました。脚本は、わかぎゑふ。
原作は、1話完結のシリーズで一冊に4〜5話入っている単行本が10巻まで出ています。お芝居では、どのお話を使うのかと思っていたら、いろいろなキャラクターやエピソードをコラージュして、さらに4話のオムニバス的な構成になっていました。ううん、なかなかうまいやり方です。舞台は下手半分が家、上手半分が庭でその半分は「結界」を作る塀になっていて、舞台中央まで移動するようになっていました。
前回見に行った時は、ミュージカル仕立てで台詞がちょっと聞き取り難かったけど、今回は普通のお芝居なので、わかりやすくて良かったです。

《以下、ネタバレになりますので、近鉄小劇場でごらんになる方、テレビ放映(があるかどうかは知りませんが)を楽しみにしていらっしゃる方は、読まない方がいいかもです》

ストーリーといっても、かなりどたばたギャグ的な要素が多いので、キャラクターから感想を書いてみます。
覚(さとる)おじさん(桂憲一)が登場からインパクトがあって、いい味だしていました。化け物を怖がり、司ちゃんを大事にしている様子とか、面白かったです。かなり気になる存在でした。司(つかさ)ちゃん(秋葉陽司)には、びっくり。あのほっそりと綺麗な司ちゃんを、がっしりと太った役者さんで持ってくるとは。太っている事をつっこむ台詞がたくさんで、寝言にまで食べる事を言っていました。知らずに来た原作ファンの人のなかには、クレームつけたくなる人も、確かにいただろうなあ(笑)でも、むしろ他の役者さんより、花組芝居らしい配役で私は良かったと思いました。
青嵐(水下きよし)の龍の姿になったときの衣装が、歌舞伎風の衣装を派手にした物で、青い鱗がとても綺麗でした。髪の毛は青。お父さんになったときも、髪が立っているところは同じ。実はいい人…じゃないいい妖魔な部分も、面白く表現されていました。最後の律(りつ)を大姫から守るシーンはかっこよかったです。
律(橘義)は主人公ながら、研修生の役者さんがやりました。ちょっと茶髪で、普通の(?)お芝居で、一緒に見に行ったYsさんの言葉を借りると「いい意味で花組らしさのない」ところが、律のキャラクターにあっていました。律が何かをするというより、周りの妖魔の方が活躍していましたから。司ちゃんの背中の痣の親とか、三郎さんの兄の鉈を持った鬼や、ちぬの君も出てきました。紫の着物の女の子もいたな。子供時代の女の子姿の律は別の役者さん(森川理文)がやっていて、かわいかったです。
お母さん(八代進一)もおばあちゃん(植本潤)も、素敵でしたよ、住職や石の三郎さんも出てきました。原作にないキャラクターが「大姫」。歌舞伎の赤姫の衣装がとっても似合う、座頭の加納幸和が凄い存在感でした。
尾白(大井靖彦)と尾黒(嶋倉雷象)は、はじめは歌舞伎の黒子が差し金で小鳥を飛ばせていて、次に裃の後見姿の役者が手で鳥をうごかし、その後カラス天狗に変身するという風になっていました。この二人、踊りが上手でした。
イメージが一番違う(いやみんな違うんだけど納得が行くのよ)と思ったのは、鬼灯(北沢洋)かな、黒のスーツにほおずきのイヤリングとコサージュをつけて、マイクを持って話すのでした。はじめ、鬼灯だとは思わなかったもの(笑)でも、出てきた場所が屋根の上だったから、やっぱりそうかと思ったの。彼も、最後にはかっこいいところがありましたね。青嵐とのやりとりとかも、面白かったです。
一番笑ったのは、蝸牛のおじいちゃん(中脇樹人)です。最初スモークとともに登場したときは、お香まで使っていましたね。(忠臣蔵の四段目みたい)さすが。で、「つまらない」ギャグで笑わせてもらいました。芝居の後半、ちょっともたついたかなと思った時に出てきて、思いっきりいい台詞でひっこんでくれて、泣くほど笑いました。

開演前や休憩時間、終演後なども、役者の人がアナウンスで色々面白いことを言って笑わせてくれるのもいいですね。そして、カーテンコールでは、加納さんの誕生日ということで、客席と一緒に「ハッピー・バースデー」を歌いました。
いやあ、とにかく面白かったです。一緒に行ったYsさんは、二回目だったんだけど、ほんとにこれはもう一度見てもいいなあ、と思いました。


花組芝居「南北オペラ」
’02(平成14)年5月26日 新宿コマ劇場

《'02年5月の日記からの再録になります》
念願の花組芝居を見に行きました。テレビでは何度か見たんだけど、生は初めて。なんだか、はちゃめちゃの舞台でしたが面白かったです☆

「花組芝居」というのは加納幸和の主催する男性ばかりの劇団で、歌舞伎などをベースに新しい演劇をやっているのですが、現在の「歌舞伎」が伝統重視の古典芸能になっている以上、本当の「かぶき」な芝居という意味では正統派かもしれませんね。

今回の「南北オペラ」は鶴屋南北の「金幣猿嶋郡(きんのざいさるしまだいり)」をベースにオペラというより賑やかなミュージカル仕立てになっています。衣装は60年代ヒッピー風をきんきらにした感じで自己紹介してくれないと誰が誰やら想像もつかない(笑)お客さんも常連のファンの人たちが多いようでのりがよかったし、なにより舞台の役者さんたちが一番楽しんでいる風でした。客席と舞台が半お知り合いという感じで、学芸会の乗り?こういうのは見ていて楽しいです。
私は考えてみると普通のお芝居ってほとんど行っていないのでした。そのせいか、歌舞伎調の台詞はよく聞き取れるんだけど、普通の台詞はよくわからないところも多々ありました。歌も上手な人とそうでない人がいて、またそれが手作り風で良かったし。お清役の植本潤という人のファルセットがちょっとお気に入りかも。



四代目尾上松緑襲名披露
 六月大歌舞伎’02(平成14)年6月24日 歌舞伎座

昼の部
「君が代松竹梅(きみがよしょうちくばい)」
「弁慶上使(べんけいじょうし)
〜御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち)〜
権八小紫其小唄夢廓(ごんぱち・こむらさき そのこうたゆめもよしわら)」
「蘭平物狂(らんぺいものぐるい)
〜倭仮名在原系図(やまとがなありわらけいず)〜
夜の部
「鬼次拍子舞(おにじひょうしまい)」
四代目尾上松緑襲名披露 「口上」
新歌舞伎十八番の内「船弁慶(ふなべんけい)」
「魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)〜新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)〜

松緑というとどうしても二代目を思い出してしまいますね。とても良い役者で、いろいろな舞台が印象に残っています。その息子の初代辰之助(三代目松緑追贈)は、大好きな役者でした。小気味の良いかっこいい舞台姿が大好きでした。
そしてその息子が、この前二代目辰之助を襲名したばかりだと思ったら、もう四代目松緑襲名です。かなり重い名前で大変だろうと思いますが、がんばってほしいですね。

私は昼夜通しで見たのは10年ぶりくらいかしら、どれも目が離せない良い演目ばかりで、つかれるどころではありませんでした。充実の一日でした。
昼の方が若干良かったかな、これでもか、みたいに良い演目がそろっていましたね。襲名の松緑が一番良かったのは「蘭平」です。この前初役でやった平成11年のを見たのですが(このページの下の方に感想を書いてあります)、当たり前だけど、上手くなっていました。前半が良かった。役者が大きく見えました。子供を心配する表情などもコミカルさと真剣さがバランス良く、最後のシーンがとても生きていました。立ち回りもさらに激しくなっていましたが、安定感があって所作が綺麗になっていたような気がします。
船弁慶は良かったけど、蘭平ほど手の内ではなかったかな。でも静御前の舞は綺麗で良かったです。知盛の霊になってからの、玉三郎の義経と打ち合う鬼迫の一瞬は美しかった。
魚屋宗五郎では、若いお殿様で、家老の團蔵に諭されて、宗五郎に詫びるあたりはなかなか合っていたわね、なんて思ってしまいました。

今回、大きな名前の襲名披露だけあって、すばらしい顔ぶれがそろっていました。舞踊「君が代松竹梅」「鬼次拍子舞」、菊之助、新之助、芝雀、本当に綺麗で良かったです。「権八小紫」の、団十郎、玉三郎はまさに錦絵から抜け出したよう。(しかし、美青年の代名詞「白井権八」って名前が美しくないわよね、あの時代は良かったのかしら…?)「弁慶上使」の吉右衛門は大きくて貫禄があって良かったし、何より鴈治郎のおわさはすばらしかった。弁慶が17年前にたった一度契った思い焦がれた相手だったとわかったときの、恥じらいと喜びの表情と、その時にできた一人娘を殺された慟哭と、義太夫にのった芝居はさすがに引き込まれます。扇雀のしのぶがまたかわいくて綺麗でね、泣ける舞台でした。これぞ歌舞伎だっ、という演目でした。「蘭平物狂」がまたよかったんだけど、なかでも雀右衛門のおりくは素晴らしかったです。はじめ、誰だあのかわいい人は、って思ったら人間国宝雀右衛門なのよ。そりゃ、上手いのもかわいいのも新聞評が良かったのも知ってるけど、本当に、このために歌舞伎を見に行ってるなあ、って物を見せて頂きました。雀右衛門さん大好きです。さらにこのお芝居は子役が重要でしどころいっぱいなのでも有名ですが、今回の岡村研佑は本当に上手かったです。子役って手の動きとかにいかにも子供っぽさが出るんだけど、彼は立派に所作をしていました。大向こうのかけ声も堂々と受けていましたね。「魚屋宗五郎」は二代目松緑の舞台がやっぱり目に浮かびます。菊五郎の宗五郎は、それに比べるとちょっと堅いのかなあ。でも田之助の女房おはま、正之助の三吉と息が合って楽しい舞台でした。

夜の部には「口上」がありました。今回出演の幹部俳優が、松緑を真ん中に裃姿でずらりと並ぶのは圧巻。それぞれみんなが、二代目松緑や初代辰之助の思い出話や、少々のユーモアを含めた口上で、最後に「新松緑をご贔屓に」と言われたら、贔屓にしないわけにはいかないわね、四代目がんばってほしいです。
田之助さんの口上のなかで、二代目が戦後(何年か聞き逃してしまいましたが)明治座で蘭平をやった時、四天(周りで立ち回りをする人たち)がそろわなくて、三津五郎、大川橋蔵、そして田之助などが出たという話をしていました、すごい…。

筋書きによると舞踊「鬼次拍子舞」が歌舞伎座にかかるのは37年振りだそうです。もちろん演じる二人が生まれるず〜っと前。そんなことより、雀右衛門がおりくをやったのは昭和25年というから50数年前、鴈治郎がおわさをやるのも31年振りだそうです。雀右衛門さんなんて、普通ならおりくなんてやらないもんね。襲名興行ってやっぱりすごい、お得だわ☆

「其小唄夢廓」にはお馬が出てきました。わ〜〜い、私にはさらにお得(笑) 控えめな首の動きなど、なかなかリアルなのよ。俗に「馬の足」とか馬鹿にする言葉になっていますが、どうして難しそうです。馬の着ぐるみに人が二人入って、上には役者を乗せて歩くのです。たいてい偉い役者だから、さらに大変そう。今回は団十郎の権八が刑場に裸馬に乗せられて花道から入ってきますが、栗毛のお馬は側対歩でした。つまり前後の足が右は右で同時に出るので振動が少ないの、歌舞伎の馬っていつもそうなのかな?今まで気がつきませんでした。今度あったらまたよく見てみよう。

今回昼にも夜にも弁慶がいました。方や義太夫物(文楽が原作)方や松葉目物(能が原作)お人気物です。弁慶は一生に一度しか泣かなかったという言い伝えによる『ついに泣かぬ弁慶も〜』という台詞が、有名な「勧進帳」では義経を叩いた事を嘆いて泣いているのに、「弁慶上使」では、今日まで存在を知らなかった実の娘を、主君の命を助けるための身代わりとして殺してしまった事を嘆いて涙を流しています。本当は、何回泣いたんだろう、弁慶さん。

もう一つ今回思ったこと、蘭平の衣装って変。最後の立ち回り、ぶっかえって浅黄の綺麗な孔雀の羽の刺繍のある衣装になるだけど、腰の周りからコルセットで膨らんだロココの女性のスカートを膝丈でギザギザに切ったみたいなのよね。同じぶっかえりの衣装でも「鬼次」のように足が隠れると貫禄が出て良いのですが。もちろん激しい立ち回りの為には、あの丈でないと無理なのはわかるけど、ね。


海神別荘’00(平成12)年3月9日 日生劇場

歌舞伎ではないですが、ほとんどが歌舞伎役者のお芝居なので、まあいいでしょう(笑)
えっと、全体的に言うと、面白かったです。興味深かったし。でも、すごく感動した〜〜とか、良かった〜〜☆というのとは違ったかな…

玉三郎の美女、新之助の公子、秀太郎の女房、左團次の沖の僧都、弥十郎の博士、そうそうたるメンバーでした。

まず舞台には腰元達と、海坊主のような沖の僧都が出てきてやりとりがある。う〜ん左團次好きだからいいんだけど、もう少しあくの強い役作りでも良かったんでは?と思いました。

さて、公子の登場☆竜宮の跡取り息子で、乙姫様を姉に持つ、元気で無邪気な若者である、腕っ節だけはものすごく強い、鎧を着た姿を見ただけで、悪者が逃げ出してしまう位だから。その第一印象「わあ、ロットバルトだ〜〜」衣装がね、ポスターでは長いマントで隠れていたから、わからなかったんだけど、黒くて体のラインにぴったりで、金の刺繍のような飾りが派手目についてて、バレエ白鳥の湖の悪魔の衣装なのよ(笑)で、役作りはかなりガキっぽさを出していて、ははは。面白かったです。
美術が天野喜孝ということだけど、衣装も含めてなのかな?確かにそんな感じでした。

玉三郎はさすがに綺麗ですね。所作がいいから、白い裾を引くドレス姿がとてもはえていました。
最初に出てくるところは、強欲な父親に海の宝と引き替えに沈められた、実は公子に望まれてお輿入れ、の海の底への道中の様子。
白馬に乗った美女を、黒潮騎士団が警護する、その印象は「わあ、ベジャールだ〜〜」(笑)白いマントをひらひらさせた、馬を現している数人の男性ダンサーと、黒いマントをひらひらさせた、黒潮騎士団の男性ダンサー総勢50人ぐらい?もっといたかな?多分歌舞伎の役者さん達だろうとは思うのだけど(パンフレット買わなかったから、わからないのであった)これが、ベジャールの世界でなくて何なんだ(笑)

玉三郎も演出をやってるからね、彼はベジャールとも仕事をしているし、バレエも結構好きでしょう?楽しんでるなあって感じでした。ついでにピルエットもありジュテもあり (笑)

玉三郎がどうしても貫禄があって、ガキっぽい公子はたじたじって、そういうお芝居だったっけ?
極楽のような竜宮のお后になれた嬉しさを、陸の親や村人たちに見せたいと我が儘を言う美女。『その姿はすでに、人間には蛇体にしか見えないからだめだ』と公子が言うのを、無理に陸にあがって事実を知り、悲しみに泣き崩れる美女。
悪意ある魔法だろうとなじられて、怒った公子は美女の死刑を命ずる。部下の手ではなく、自分の手で殺せと言う強気な美女に剱を向けた公子の、真実のまなざしの美しさに打たれ、『もう悲しんだりはしない、貴方に殺されるのが嬉しい!!』と叫んだ美女を、公子は許し、大団円。ってね、えええって、たぶん筋を知らない人は思ったんではないでしょうか?終わった後のね、拍手がね、少なかったのよ(笑)
客席の有閑マダム達には、泉鏡花の美学はわからなかったのでしょう。または、わからせる事の出来なかった舞台だったのか…。とにかく最後の、美女の台詞の所、何かもう一呼吸、説得力のある間、みたいなものがとれなかったのかと…思ったことでした。

それにしても、玉三郎綺麗でした。それだけで満足☆(と言われた、ご本人はがっかりするかも知れませんが…)
実は、新之助を楽しみにして行ったのだけど、彼は歌舞伎の方がいいかも。でした。


初春歌舞伎公演’00(平成12)年1月10日国立劇場

歌舞伎十八番の内 鳴神(なるかみ)」
「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)
〜将門(まさかど)〜
「嫗山姥(こもちやまんば)
〜八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし)〜
の三本立てでした。

鳴神。いつ見ても面白いです。私が初めて歌舞伎を見る方に、お勧めするのがこの演目なんです。わかりやすいし、赤姫だけでも綺麗なのに、片脱ぎでさらに素敵な衣装です。
雲の絶間姫は松江さん。綺麗で大人しい感じの女形で、大好きです。鳴神上人は橋之助さんでした。ちょっとまじめっぽいところが、上人に似合いでしたね。

忍夜恋曲者。実はライブでは初めて見たのです。スッポンの出が、幻想的でやっぱり良かったです。滝夜叉姫は福助。本興行では初役ということで、ちょっと気負いがあったのか、堅い感じでした。光圀の梅玉は、福助の頃からのファンなので、見られるだけで幸せ☆
今回一番良かったのは、滝夜叉姫の妖術で呼び出された蝦蟇。動きがとってもチャーミングでしたわ(笑)

嫗山姥。金太郎さんのお母さんが、身ごもったいきさつのお話。
別れ別れでそれぞれ仇を捜していたが、奥さんの妹がとっくに仇を討っていて、のんびり煙草売りに身をやつしていたご主人、奥さんになじられて、その場で腹を切ってしまう。そして、奥さんに神通力が備わり、生まれて来る子供は勇者になれと念じて、自分の内臓を奥さんに食べさせてしまう。何とも歌舞伎らしい筋書きではないですか。神通力を得た奥さん、その強いこと並み居る敵をばったばったとなぎ倒し、空飛ぶ力まで備わった、スーパーウーマンになってしまうのでした。
主人公である奥さん八重桐が芝翫、旦那が梅玉、妹白菊が福助。この福助が凛とした女丈夫で、かっこよかったです。そしてコミカルな役柄の、腰元お歌の東蔵が良かったです大きな声で、お客さんにも、今日一番受けていたんでなないでしょうか(笑)


蘭平物狂(らんぺいものぐるい)’99(平成11)年11月23日歌舞伎座

今回は「蘭平」だけ、幕見で見てきました。大盛況で、座席はいっぱい、本当の立ち見だったんですよ。

辰之助の蘭平、菊五郎の在原行平、八十助の与茂作、菊之助のおりく、他
この演目は、大好きだった初代辰之助の十三回忌追善狂言でした。

見所は、なんと言っても後半の立ち回りです。蘭平が、血みどろになって、息子を捜しながら、取手と戦うシーン。派手なアクションがたくさんあります。四天の役者さんも大活躍です。
花道に立てた、梯子の上から、舞台に刀を投げて、見事にキャッチする技や、結構高い屋根から、トンボを切って、飛び降りたり、見ている方は、とっても楽しみです。

歌舞伎は形式の芸術ですから、立ち回りも、やることは決まっているんですが、それでも、わくわくします。大きな見せ場のひとつが、花道に梯子を立てて、下で大勢の四天が支えて、一人が登って一番上で体を腰のあたりで支えて手を離して、大の字に逆さまになる、という技。お客さんも梯子が出てきた段階で、それがわかってるから、もう、楽しみに待っているのね、ところがこの日、梯子を登る途中で、がくんと、一段踏み外したりした物だから、一瞬みんなで息をのんでしまったのでした。もちろん、その後無事に演技をしていたのですが、ご本人も、内心ハラハラだったのではないかしら?
その前に、場面転換のために引かれた幕が、途中で動かなくなる、というハプニングがあったばかりだから、余計心配でした。

それと、面白かったのは、四階席だったからこそなのだけど、舞台の他の場所で、主人公達が立ち回りをしている間に、屋根の上に上がって、次のアクションの準備をしている役者さんが、梯子を片づけて去って行く仲間に、両手をひらひら振って、何か合図をしていたのが見えてしまいました。「がんばれよ」「おう、まかせとけ」とでも、言っていたのかしら?それとも、「終わったら、飲みに行こうぜ」「いや今日は、やめとくよ」なんて…言ってるわけないかな(笑)

余談になりますが、初代辰之助は本当に好きでした。病気療養していてカムバックしたときのお約束狂言「お祭り」で、大向こうからの『待ってました』の声に『待っていたとはありがてえ』と言った声の、小気味の良さ、ぞくぞくっとした物です。


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